β-Health通信 953号掲載(平成16年3月20日号) 〜心晴れやかに、明きらめる〜
病気と向き合っていくために、心のケアも大切
心と身体は密接に関係があるもの。病気療養中には、誰でも心にダメージを受けますし、健康回復には心のケアも重要です。そこで、辛い闘病期をいかに過ごせばいいのかを精神科医の春木繁一先生にお聞きしました。ご自身も31年を超える透析患者であるお立場で、透析治療中の腎臓病患者さんの精神的ケアをご専門とされており、この分野では国際的にも知られる権威です。


松江青葉クリニック院長 東京女子医科大学客員教授
 春木 繁一 先生



初めは誰もが落ち込む。
甘えるのも患者さんの権利。


どんな病気でもそうですが、特に透析治療は、肉体的にも、経済的にも負担を強いられるものであり、精神的なダメージも同じように大きいのです。長い間、多くの患者さんと出会ってきましたが、やはりどなたでも、最初は落ち込みます。それが普通です。特に最近は、高齢になってから発病される方が多く、これからゆっくりと第二の人生を楽しもうという年代だけに、治療を始める時のショックは大きいですね。ヤケになって、周りに当たってしまうこともあるでしょう。いいんです。それは患者さんの権利ですから。「あのときの手術が良くなかった」とか、「あの時、苦労させられたから」と他人を責めたくなる「他責」の期間があるんです。ご家族や看護される方も、「今はそういう時期なんだ」と理解し、許容してあげて欲しいですね。「がんばれ」という励ましも、つい言ってしまいがちですが、辛い時の人には、酷な言葉です。「自分の力で乗り切れ」という意味ですからね。そうではなく、インクの吸い取り紙のように、悩みや不安を聞いてあげる姿勢が、患者さんにとっては、一番うれしいことなんです。

心を晴らして、すっきりと、明きらめることが大切。
他責の時期が過ぎると、「自責」の気持ちが出てきます。「自分が体をいたわらなかったからなぁ」と。そうしてやがては、「仕方がないな」というあきらめの境地に入ります。このあきらめが肝心なんです。「あきらめる」と言うと、皆さん、「もうだめだ」と断念してしまうことだと考えるでしょう。「諦め」と書くと、そういう意味になりますね。でも、「明きらめ」と書いて、「ものごとの事情、理由が明らかになる。心を晴らす」という意味があるんです。古語の「明きらむ」という言葉から来ているんですが…。この「心を晴らす」というのが大事ですね。悔やんだり、後ろ向きに考えるあきらめではなく、「よし、病気と一緒に生きていこう」と自分の運命、人生を受け止めて、心をすっきりとさせることです。
もちろん、そういう気持ちになりなさいと言っても、自分で心を変えることは難しい。ただ、時間が経てば、そういう気分になっていけるし、心が変われば、体の調子だって変わっていくということは、知っておいて欲しいですね。
気力も体力も、やがて回復する時がきます。辛い時期を過ぎて、トンネルを抜けられる日が、きっと来ます。ゴルフやトレッキングなどの軽いスポーツなら、やがて再開できるだろうし、仕事だって勤務時間や内容によっては可能でしょう。実際、趣味で作った作品を展示会で披露したり、ボランティア活動を始める方も少なくありません。いきがいがあり、頼りにされること、自分の存在意義が確認できることは、どんな人にとっても、生きていくうえで欠かせない糧なんですね。

夢を軌道修正して、人生をマイナーチェンジ
透析治療が始まっても、それで人生の楽しみが全て閉ざされるわけではありません。描いていた夢によっては、実現不可能な場合もあるでしょうが、何もかもを断念する必要はない。軌道修正でいいんです。「人生のマイナーチェンジ」ですね。「病気になって失ったものも沢山あるけれど、得たものも少なくない」とおっしゃる患者さんもいます。命の有り難さや自分の人生について考えるようになった、とね。実際には、なかなかそうは思えません。健康な時だって、すぐに不満を抱いてしまうのが人間ですからね。でも、こうした心境になれば、精神的には、とても満たされる。 
これは腎臓病に限らず、すべての病気に言えることですし、元気な方にとっても、心豊かに人生を重ねていくうえで大切なこと。どんな境遇にあっても、自分で自分を愛せること、幸せだと感じられる心を持てること。それが一番大切であり、そしてとても難しいことなんです。病気治療と同時に、精神的なケアが必要なのも、そのためです。発病と同時に、潜在していた心の問題が、浮上してくることもあります。本人だけの力では、どうにもできない場合もあり、そういう時には、精神的なケアが必要だということも、ぜひ知っておいて頂きたいですね。


 
 
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