シャントケアについて栄養士からの手紙災害に備えて


 
現在、シャントや人工血管を総称してバスキュラーアクセスと呼ばれています。血管から血液を出すための出入り口とそれを確保する方法のことをいいます。血液透析は体にたまった老廃物を取り除くために、1分間に約150〜250mlの血液を体から取り出し、ダイアライザーと呼ばれる膜に通して行なう治療方法のことをいいます。ですから、透析患者さんにとってバスキュラーアクセスは血液透析を行うためになくてはならない大切な「命綱」です。シャントをできるだけ長持ちさせるためには患者さん自身が「シャントについて良く知り」「シャントの合併症を予防する」ことが大切です。今回は透析患者さんのシャント管理に役立つお話をしたいと思います。
人の血管には動脈と静脈があり、心臓から体全体へ血液を送る道が動脈で、体全体から心臓へ戻る道となるのが静脈です。一般的に健康診断や病院で行なわれる血液検査に必要な血液を取り出す際に使われる血管が静脈で、皮膚から浅いところにあります。しかし静脈では1分間に約150〜250mlほどの充分な流量が取れないので、血液量の多い動脈から取り出す必要があります。そこで血液の豊富な動脈を静脈につなぎ合わせて「シャント」を形成します。「シャント」はすでに存在する自分の静脈を動脈化させたものであり、皮膚から比較的浅いところにあるので、針を刺すのが容易ですし、止血がしやすいなどの多くの利点があります。

シャントを作成することで、静脈に圧の高い動脈の血液が流れる時に乱流が起こり、この圧力に対抗する為に血管の内膜が厚くなります。その結果血液が流れる道が狭くなり「シャント狭窄」が起こってくるわけです。シャントが狭窄した場合はシャント造影・PTA(血管拡張術)を行ないます。

シャントは血流が途絶えることにより容易に閉塞します。シャントを圧迫したり、急な血圧下降を繰り返したり、脱水になることで血管内の血液の流れが少なくなりシャント内で血液が固まり「シャント閉塞」が起こるわけです。シャントが閉塞した場合はシャント造影・PTA(血管拡張術)を行い血栓の除去を行いますが、場合によってはシャントの再形成術を行なうこともあります。

析患者さんは抵抗力が弱いことと、週に3回穿刺をするため消毒液やテープかぶれなどで皮膚におおきなストレスがかかります。また止血後に長時間血液のついたガーゼや止血テープやカットバンを貼ったままにすることも感染の原因となります。穿刺前に穿刺部を流水と石鹸の泡できれいに洗うことや、止血後はきれいなガーゼや止血テープで保護し、透析翌日にはガーゼや止血テープを取ること、シャント肢にかき傷やその他の傷をつくらないようにすることが大切です。穿刺部が赤く腫たり、熱くなり痛みなどが見られた場合は要注意です。シャント感染を放置しておくと全身の感染(敗血症)へと広がっていくためすぐに主治医に知らせることが大切です。

透析中は血液が固まらないお薬を使います、そのため透析が終わってしばらくは出血しやすい状況にあります。また、シャントは圧の高い動脈血が流れているため多量に出血する可能性があるので、透析が終わった時の確実な止血が大切です。なるべく自分の手で圧迫止血を 〜 分行なうことが理想です。止血ベルトを使用された場合は 分後くらいに止血の確認を行い、それでも心配な場合はベルトをゆるめに巻くなどの工夫をされると良いでしょう。



シャントが「赤く腫れていないか」「出血はないか」「熱くはないか」「膿が出てはいないか」を確かめます。このような兆候が見られたら感染をおこしている可能性があるので主治医への報告が必要です。



 



シャントの流れを手で確かめてみましょう。シャントの傷からひじの方向(#1〜#3)へと順々に触っていきます。ひじの方向に進むにつれシャントのスリル(血管が振動する音)は弱くなっていきますが、毎日触っていると強弱の変化を知ることができます。またシャント血管の弾力や硬さにも注意します。シャントが閉塞すると血管の弾力がなくなり、硬くコリコリになります。





シャントの音は静脈の血管が振動している音です。「ザーザー、ゴーゴー」の音は正常ですから心配することはありません。しかし、「ピューピュー」という木枯らしが吹く音や、「ドク・・ドク・・」のような拍動音や「・・・」全く音がしないといったときはシャントが危機状況にあるといえます。毎日聴診器で音を聴くということは「いつもと音が違う」ことをいち早く発見でき、早めの対応が可能になるためシャント喪失リスクを少なくすることにつながるといえるでしょう。




シャントの血流が途絶えると容易にシャントは閉塞します。シャント側では血圧測定や採血をしない、手枕や腕時計や荷物をぶら下げないなどシャント血管の圧迫を避けることが重要です。
また、シャントを常に清潔に保つこと、シャントのある皮膚に刺激を与えないために寒冷に長くさらさないことや透析の際に使用するテープは肌にあったものを使う工夫も必要です。
透析患者さんにとってシャントは命綱です、異常の早期発見と早期治療が大切です。毎日の「観る」「触る」「聴く」を習慣とし、シャントが長持ちすることを心がけて下さい。

引用・参考文献 1)前波輝彦ほか“ブラッドアクセスの合併症”シャント管理と穿刺技術. 透析ケア2005年夏季増刊、大阪、 メディカ出版、2005、68.

               
 
 
<取材協力>

武田 晶子(たけだ あきこ)
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医療法人 回生会
宝塚病院
透析看護認定看護師


〒665-0022
兵庫県宝塚市野上2-1-2
電話(0797)71-3111


 
【プロフィール】

○透析看護認定看護師

10年の透析看護経験の後に透析看護認定看護師の資格を取得する。現在は臨床現場での患者支援と、透析に至らない慢性腎不全の患者向けに「保存期外来」を積極的に活動中。患者さんのQOLの向上を目指し臨床外でも講演などで奮闘中。

 
               


昨今 食の問題が浮き彫りになり、日本産を見直す動きが出てきましたが、輸入に頼るという面では果物も例外ではありません。ここ数十年の輸入自由化の波によりトロピカルフルーツなど日本で生産されていない果物が安価で食べられるようになったものの、昭和40年には90%だった果実の自給率が、平成17年になると39%まで減少している現実があります。さて日本人が1日平均どのくらいの果物を食べているかご存知でしょうか? 平成17年の国民健康・栄養調査では国民1人1日当たりの果物摂取量は約125g、年代別でみると20〜30歳代が極端に少なく、特に30歳代は約70gと一番多い60歳代の約170gの半分以下となっています。また一番よく食されている(消費重量が多い)果物は、バナナ、みかん、りんごの順となり、バナナはほぼ100%が輸入品です。
  栄養的には、ビタミン、ミネラル、食物繊維の大事な給源だけでなく、近年、様々な健康維持に関する研究がなされ、生活習慣病などの予防に重要な役割を果たしている事もわかってきました。透析者の方々はビタミンCが不足しがちでその補給源ともなる果物ですが、バナナやメロン、キウイフルーツ、干しぶどうや干しプルーンなどのドライフルーツには、カリウムも多く含むので、高カリウム血症を引き起こしやすい透析者の方々にとっては、果物の食べる量には十分注意が必要です。透析者の方々が1日に食べ物、飲み物から摂取できるカリウムの目安量は1500mg、これはバナナ約4本分に相当します。カリウムは水(お湯)に溶け出しやすい性質があるので、調理する事による損失を考えても生の食材で2000mg以下には抑えたいところです。また血液中のカリウム値の高い人は出来るだけカリウムが多い食品は生で食べないように気をつけましょう。 同じ量の果物なら缶詰の方がカリウムは少なくなりますがビタミンCも減ります。ビタミンCが多く、比較的カリウムが少ないものに国内生産量トップのみかんがあります。果物からのカリウム摂取量は1日に100mgまでを目安に、みかんなら中1個、リンゴなら中1/2個弱、いちごなら中5粒程度を一番おいしい旬の時期に合わせて、新鮮な果物の味、食感、香り、色、果肉を食べる音など五感で楽しみながら、より美味しく食べる事で健康維持に努めていただければと思います。

               
 
 
【プロフィール】

吉田 有里(よしだ ゆり)
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管理栄養士
衛生検査技師

 
大学卒業後、大学病院や国立研究所にて、ドクターのアシスタントとして主に腎臓や血液関係の研究に携わる。その後、臨床現場にて生活習慣病や透析を中心に腎移植を含む腎臓病を専門とした栄養指導に従事、その傍ら学会、研究会にて発表も行う。 現在特定非営利活動法人 NSC2000の副理事長として、透析(腎臓病)関係を中心に講演および栄養指導や執筆活動を行っている。
特定非営利活動法人 NSC2000
(管理栄養士のネットワーク)
ホームページ  http://nsc2000.org/


 
               


  『災害手帳』には、病医院の連絡先・服用している薬・透析条件・最近の治療経過など、緊急時に必要な情報が記載されています。普段から常時携帯する様にしましょう。
  普段飲んでいる薬をよく確認しておきましょう。特にカリウムを下げる薬は必要なことも。インスリンを投与されている方は、災害時にも、注射器・インスリン製剤両方を常に携帯して下さい。薬は2〜3日分を常に持ち歩くか、直ぐに持ち出せるように準備しておきましょう。
  大規模災害時は、電車・バス等の公共交通機関は使用不能になることが予想されます。親戚・隣人・知人・ヘルパー等、緊急時の移動手段・協力者を事前に確保しておくことも大切です。 
  親戚・知人宅などに避難した場合、最寄りの医療機関の場所などを確認。臨時透析をお願いすることも想定しておきましょう。
  地震の場合、ほとんどの地震は1分程度でおさまると言われています。慌てず、スタッフの指示に従うことが大切。
 

自分自身・家族の安全を確保する。特に、シャントの怪我に注意!
●ラジオ等で情報の確認を
●火の始末、ガスの元栓や電気のコンセントの確認を
●地域指定の避難場所へ避難
●通院している病医院との連絡を

(社)全国腎臓病協議会作成「災害マニュアル」(改訂版)より抜粋